読録19 “春原剛 ~ ヒラリー・クリントン ~ “

読書記録、略して”読録”第19号は春原剛著書の ヒラリー・クリントン という本についてです。

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個人的全体評価: (3/5)
読みやすさメーター: (3/5)
語彙の難しさメーター: (4/5)
ドキドキメーター: (2.5/5)
新しい価値観メーター: (3.5/5)
説得力メーター: (3/5)

この本に自分でタイトルをつけるならズバリ: 日本からみたヒラリー・クリントン

読書に至ったキッカケ

アメリカに8年間住んで、リベラルな大学にも通ったくせにあまり今でも政治に興味を持てていない自分…

アメリカ大統領選挙が迫る中、日本のテレビ番組でもヒラリー・クリントンとドナルド・トランプの両候補が頻繁に取り上げられるようになってきました。

アメリカでは日本人として、日本ではアメリカ人として見られがちな中途半端な自分ですが、この大統領選挙も一般日本人よりはちょっと興味があるけど、アメリカ人より全然深く理解できていない、そんな感じで眺めていました。

でも、いい加減にちゃんとこの選挙のコンテクストを理解した上で選挙の行方を展望してみたくなりました。

そして、2人の候補についての世論についていけるようになりたくなりました。

ということで、そう思ったその日中に本屋にいって、本書と佐藤伸行さん著書の「ドナルド・トランプ」という本を購入してきました。

1人で勝手に、2016年アメリカ大統領選挙候補者研究プロジェクト、開始です。

要約

本書は、筆者の春原さんが2014年に行ったヒラリー・クリントンの単独インタビューを回想しながら、ヒラリークリントンの半生、政治哲学、夫との関係、対中国、そして対日本の外交政策を1つずつ噛み砕いて説明しています。

第4章まであるうちの、最後の2章がアジアと日本に割り当てられているので、本書は著者が日本人であることもあってか、日本の視点から観たヒラリー・クリントンという女性が描かれています。

そしてヒラリー大統領就任した暁には、日本に及ぶであろう影響の数々にも触れています。

ヒラリーとアメリカ経済

1990年代米国は正しい方向に進んでいた、と語るヒラリーですが、当時の大統領は夫のビル・クリントンでした。

ビルは”It’s the economy, stupid!”の謳い文句で経済的に苦しんでいた中間層からの信頼を勝ち取り、ブッシュを選挙で破りました。夫同様、大統領になった暁にはヒラリーも経済に重点を置き、特に中間層の復活に力を入れるようです。

ヒラリーとTPP

ヒラリーはもともとTPP賛成派でした。

ロシアや中国などの国家資本主義を掲げる国が国営企業、SOE(State-Owned Enterprise)を通じてグローバル市場での脅威を増すのを妨げるため、またTPPをアジア版NATO(北大西洋条約機構)としてアジアにおける米国の存在感をより一層強めるためのインフラストラクチャーにする、というのがヒラリー陣営がTPPに賛同する主な理由でした。

しかし、格差是正の観点から若者・労働組合の支持を得ていたバーニー・サンダーズの躍進もあって、2015年から徐々にTPPが「米国の雇用創出や賃上げ、安全保障の促進につながるような高い水準を満たしていない」と反対の立場をとるようになりました。

バーニーズ氏の台頭を睨み、突如手のひらを返すように対TPPの立場を180度変えたヒラリーですが、その舞台裏では当選後には支持する姿勢に再度転ずるとの噂も立っています。

このような、ヒラリーのFlip-Flopぶりな態度は、ヒラリーが米国民から信頼されていない理由の1つであります。

ヒラリーと安倍首相

アベノミクスの第3の矢として、女性の社会進出奨励策をかかげる安倍首相をヒラリーは手放しで称賛しています。

2013年9月に安倍首相が国連総会で「女性が輝く社会」実現を訴えたことにたいして、翌月に書簡を送りエールをおくったほどです。

《女性の社会進出を米国のみならず広く海外にも伝播させる》ことを自らの使命としているヒラリーと安倍首相は、女性の社会進出において相思相愛の関係にあると言えます。

ヒラリーと中国

リチャード・ホルブルックという今は亡き人である元ヒラリーの重臣からヒラリーは多大なる影響を受けていますが、そのホルブルック氏は、今後米中関係が「世界で最も重要な二国間関係」になると訴え続けてきた人物です。

ビル・クリントン大統領時代に、日本を素通りした米国の対中外国、ジャパン・パッシングが起こり危機感を覚えた日本でしたが、妻ヒラリーも日本より中国を重視する傾向があるのではないか、とみられていました。

しかし、ヒラリーは米中G2論を明確に否定しています。

それどころか、ヒラリーは中国を人権問題で牽制しています。

「世界は中国に新たな地位に相応の役割を求めている…」

ヒラリーは経済的成長を遂げた中国を大国と認める一方、中国がResponsible Stake-Holderとして、大国としての自負(プライド)と自覚(責任感)の双方を促し、経済だけではなくモラル的の面からもリーダーになるよう求めています。

これに対し、中国はステークホルダーの美名の下、米側が人民解放軍の透明化や市場開放、人民元改革、民主化の促進などの難題を押し付けてくると警戒し、「ヒラリーアレルギー」を持つようになりました。

ファーストレディーとしてのヒラリー

エレノアルーズベルトに強い憧れを持つヒラリーは、米国史上最も国政に口を出すファーストレディーでした。

その活躍振りは大統領夫人の枠内には収まらず、議会の承認を受けることのない最も重要な閣僚として揶揄されるほどでした。

ホワイトハウス内は、一気に男女平等、差別撤廃の仕様に様変わりし、夜中まで討論をくりかえし、ピザやフライドチキンが宅配で届くような学生寮のようになっていた、とのことです。

ヒラリーとホワイトウォーター

1989年に不良債権を抱えて倒産した貯蓄金融機関、マディソン・ギャランティーにたいして払われた公的な援助資金を、ビルが知事選挙に当選した1978年、クリントン夫妻が友人と共に設立・共同経営していた不動産開発会社「ホワイトウォーター開発」を通じて、不正に政治資金などに流用したのではないか、と嫌疑がかけられました。

その不正資金の橋渡し役をしたのがヒラリーではないか、との疑いがかけられました。

これら一連の疑惑を解消するための特別検査官の氏名や資料提出を渋ったことから、いっきにヒラリー批判の風向きが強くなり、多くの側近が辞任に追い込まれました。

また、幼友達であったビンセント・フォスター大統領次席法律顧問が自殺をしたことも、スキャンダルの口封じのためではないかと、より一層批判を強めることとなりました。

結果、世論はヒラリーに鼻白み、クリントン夫妻の支持率は急降下しました。

ヒラリーとルインスキー事件(夫ビル・クリントンの不貞)

1998年、夫ビル・クリントンが、ホワイトハウスでインターンをしていたモニカ・ルインスキーさんと「不適切な関係」を持っていたことを認めるという、前代未聞の事件が起きました。

夫とはしばらく冷え切った関係になったというヒラリーですが、浮気が発覚したあとも「耐える妻」を演じきり、ホワイトウォーター疑惑で低迷したヒラリーの支持率は一転向上し、上院議員候補として担ぎ出されるようになりました。

国務長官としてのヒラリー

2008年、ヒラリーはオバマ大統領に請われて国務長官に就任します。

国務長官に就任すると、最初の外遊地としてアジアを選択します。これは戦略的に「米国は太平洋国家であり、アジアを重要視している」というメッセージを送るためであると言われています。

また、ヒラリーはこれまでの国務長官より、アジアにて軍事的な政策を多くとっています(インドネシア、フィリピン、オーストラリアなどでの軍事拡大)。上院議員時代、軍事委員会に所属していたこともあり、外交には強硬な姿勢で臨んでいるようです。

ヒラリーと靖国参拝

先ほど、ヒラリーは安倍首相とは女性の社会進出において相思相愛の関係にある、と言いましたが、安倍首相の靖国参拝については批判しています。

他国の怒りを不必要に買うような行為は戦略的にさけるべきであるし、日本と韓国との協力関係は米国にとっても利益であるため、靖国参拝は反対、というのが概ねのヒラリー陣営の考え方です。

ヒラリーと慰安婦問題

“ヒラリーにとって、従軍慰安婦をめぐる日本の対応は、自らのライフワークである「女性の権利」の向上に対して、日本がどこまで真摯的に取り組んでいるのかをはかるための「リトマス紙」のような役割を負っていたのでしょう”

と筆者の春原さんは述べています。

第3の矢として、女性の社会進出を標榜する安倍首相にとって、慰安婦問題は二枚舌、ダブルスタンダードだ、と批判の種になりかねない、懸念材料でした。

そのプレッシャーもあってか、2015年末に朴槿恵韓国大統領と慰安婦問題について電撃的ともいえる和解に至りました。

このように、ヒラリーが推し進める「女性の権利向上」は日本に知らず知らずのうちに外圧をかけているようです。

所感

クリントン一家はどうも、ホワイトウォーター疑惑やルインスキー事件が理由で「嘘つき一家」「信用できない」などのレッテルが貼られている模様です。

この本を読んで、ヒラリー・クリントンについてはもちろん、夫ビルやオバマ大統領について、そして安倍首相についても多くの見識を身につけることができました。

裏を返せばそれだけ知らないことが多かったということですが、それは初めからわかりきっていたことですので、今後も謙虚に、そして好奇心旺盛に日本国内に限らずアメリカの政治・歴史について学んでいきたいです。

また、ヒラリー・クリントンに関する1冊を読んだだけで、彼女を理解した気になってはいけないとも自負しています。
大統領選挙が近づく昨今の書店では、ヒラリー・クリントンの本が多く並んでいます。
今回読んだ本は、春原さんの視点、考えを通したものとなっており、10冊のヒラリー・クリントン本があれば10通りのヒラリー像があるのだと思います。

試しに、ある書店で見つけた別の著者によるヒラリー・クリントンについての本の目次をパラパラと見てみたところ、この本とは全く違った着眼点から彼女の半生を洗い出しているようでした。

応用

この本から何かを学び実践する、という内容の本ではありませんですし、そういう目的で読んだわけでもなかったので、今回に限っては<応用>はスキップしたいと思います。
ただ、これを機にアメリカの政治についても少しずつ詳しくなっていけたらな、と思います。

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