読録20 “佐藤伸行 ~ ドナルド・トランプ ~ “

読書記録、略して”読録”第20号は佐藤信行著書の ドナルド・トランプ という本についてです。

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個人的全体評価: (3.5/5)
読みやすさメーター: (3.5/5)
語彙の難しさメーター: (4/5)
ドキドキメーター: (2.5/5)
新しい価値観メーター: (4/5)
説得力メーター: (3/5)

この本に自分でタイトルをつけるならズバリ: Trump the Attention Whore

読書に至ったキッカケ

前回の読録ではヒラリー・クリントン氏を取り上げました。

2016年11月8日に行われるアメリカ大統領選挙に向けて、両候補についてもっと詳しく知りたい、という思いから一人で勝手に始めた候補者研究プロジェクトですが、まずは春原さんのヒラリー・クリントン氏についての本を読み、ヒラリー・クリントンの対日外交戦略やファーストレディー時代に経験した様々な出来事、そしてなぜヒラリー・クリントンは一部の国民から嫌われているか、などのことについて詳しく知ることができました。

今回は民主党候補ドナルド・トランプ氏について佐藤伸行さんがまとめた本を読み、この暴君の正体に迫ろうと試みました。

要約

~だがわたしのコミックは現実のものだ。わたしはわたしという劇画の造物主なのだ。そして、わたしはその劇画世界に生きることをこよなく愛している

自己顕示欲の権化で、究極のナルシストで、オポチュニストで、自分のブランド力の向上のためには詐欺情報の1つや2つはなんてことない。そうやって常にみなの注目を浴びていたいドナルド・トランプは常に現実社会の”主人公”でいたく、そしてついにアメリカ大統領にまでなってしまいました。
そんな彼の半生を紐解いていきながら、ドナルド・トランプという人物像に迫りたいと思います。

ドランプ氏の祖先

「メキシコとの国境に壁を作り、移民を国から追い出せ!」
と過激な発言を繰り返すトランプ氏は、実は移民の子孫です。

ドナルド・トランプの祖父にあたるフレデリックはドイツのカルシュタットというワイン名産地に住む、貧農でした。
1885年、アメリカンドリームを追い徒手空拳でNYへ渡米。理髪師として小遣いを貯めると、当時ゴールドラッシュがあり成長著しかったシアトルへ移住。そこでトランプ一族の血に宿るビジネスセンスを遺憾なく発揮し、金の採掘者のための風俗ビジネスを経営するという「コバンザメ商法」で荒稼ぎしました。

その後、故郷に錦を飾る形で帰郷したフレデリックでしたが、徴兵制を逃れたと懐疑され、結局アメリカ人として生活していくことになります。

フレデリックは結局、第一次世界大戦終戦の1918年にスペイン風邪が原因で49歳の若さで死去しました。
フレデリックが設けた3人の子の内、長男にあたるフレッド・トランプは、ドナルド・トランプの父にあたる人物です。

戦時中アメリカ人から嫌悪の目で見られていたドイツ人であることに嫌気がさし、フレッドは自分をスウェーデン系移民であると知人には説明していたようです。

勤勉でワーカホリックな気質であるフレッドは、15歳の頃から「大工仕事をしたい」との希望を持ち、母エリザベート(ドナルド・トランプの祖母)と「エリザベス・トランプ・アンド・サン」という会社を設立、主にNYクイーンズの労働者階級の住む地域をビジネスの主戦場としていました。

一時は1929年に起きた世界大恐慌を前に苦境に追い込まれることもありましたが「禍福は糾える縄のごとし」、ルーズベルト大統領のニューディール政策の後押しを受け、再び不動産業で大成功し、ブルックリン最大の住宅建設業者として知られるようになりました。

ケチの哲学や人種差別はドナルドの父、フレッドから受け継いでいるようで、フレッドは白人至上主義団体KKKのメンバーであったことが濃厚であるとされています。

ドナルドの母にあたるメアリは、これまたスコットランドからの移民で、ドナルドとは正反対の慈善活動家です。
ドナルドは母を崇拝しているようで、自分が2回も離婚を経験している理由として「母メアリとくらべてしまうから」とまで言っています。

トランプの生い立ち

母との距離は近かったものの、父との関係は”ビジネスライク”であったとドナルドは自分の自伝で述べています。

ちなみにトランプは兄がアルコール依存症で他界していることから、お酒は飲まない主義なのだとか。

さて、そんなトランプはいわゆるガキ大将として育ち、その暴れん坊っぷりに頭を抱えた両親はドナルドを全寮制の軍隊式学校のNYMA(New York Military Academy)に進学させます。

そこで「自分の攻撃的な性格を建設的に使うことを学んだ」と同氏は述べており、また現在も持っている潔癖性はこの時の小銃磨きを発端としているのでは?とも言われています。

NYMAでは野球部のキャプテンを務め、なかなかのプレーヤーであったとのこと。
それもあってか、富裕層の令嬢からとてもよくモテて、キャンパスは常に美女を連れ回していたようです。

家に近かったからとの理由から(流川か!笑)フォーダム大学に入学し、2年後にはペンシルバニア大学院ウォートン校に進学、経営学と不動産ビジネスを学んだそうです。
しかし、自己顕示欲が強く自慢話ばかりしているドナルド・トランプが自分の大学院時代について話すことは、まるでそれを避けているかのように少ないようで、学歴詐称疑惑もあるほどです。

そんな疑惑の大学生活を、トランプは自伝では「知能指数170、成績はオールA、ウォートン校一の秀才であった」「クラスメートたちは特に畏敬すべき、並外れて優秀な者たちではないと気がつくまで、たいして時間はかからなかった」とひとくさりにまとめています。

また、卒業後はベトナム戦争中の徴兵を骨棘という症状を言い訳に逃れた疑惑を持たれていますが(そのくせにベトナム戦争の英雄として知られるジョン・マケインを「英雄は捕虜などにはならない」と言い捨てています。。)、「実は抽選にもれた」「だいたいベトナム戦争は間違った戦争だった」など言い、結局けむに巻いています。

結婚生活と女性に対する偏見

先述したように、トランプ氏は2度の離婚を経験しており、現在の妻メラニアは3人目の妻になります。(メラニアとの壮大な結婚式にはあの因縁の敵ヒラリーも出席したらしいです。今となればなんとも滑稽)
トランプ氏の結婚履歴を見るとトランプ氏にとって結婚相手は「トロフィーワイフ」としか見ていないことは明らかで、離婚と結婚を繰り返すたびに奥さんは若くなっていく傾向にあります。
また、父親譲りのケチであるトランプ氏は、婚前契約を毎回し自分の財産を離婚による慰謝料から守っています。

そもそも、トランプ氏には女性蔑視の考え方があり「女性を邪悪な生き物である」と見ているようで、婚前契約をするのも邪悪な生き物から自分を守るためであるとの説もあります。
テレビ上で気に食わない女性に対して月経を迎えているんだろう、と言い放ってみたり、人工妊娠中絶を行った女性を罰すべきだと主張したりと、公の場での女性差別を厭わないほどの女性嫌いは、選挙中”the lockerroom talk”のテープがリークしたことで全世界に知れ渡ることになりました。

ビジネスマンとしてのドナルド・トランプ

不動産王として知られるトランプ氏は、決して神算鬼謀の不動産家であるわけではなく、4度の破産を経験している苦労人です。

不動産家としては、庶民を相手にブルックリンやクイーンズに家を建てる父親の手法を軽蔑し、富裕層エリアに派手で華やかな建造物を建て、自らの名前が入った名前をつける、そんなビジネススタイルで名をあげました。

みみっちく、地道な父親のスタイルに嫌気がさしたのは、若くして父に帯同した家賃取り立てで遭ったいくつもの危険と隣り合わせの経験や、利ザヤが小さいことが原因だそうです。

とは言いつつも、民主党(Democrats)クラブのメンバーとのパイプが太く、信用度の高かった父フレッドの助けは特に初期のドナルド・トランプの成功には欠かせないものであったようで、カジノビジネスで大失敗したときも、父フレッドから金銭的な救いの手を差し伸ばされ危機を逃れています。

4回の破綻を経験したものの、著者の佐藤氏はトランプ氏の本業である不動産ビジネスの才覚を否定することはできない、と述べており、不動産家としてのトランプ氏の腕は確かなものであるようです。
雑誌「プレイガール」によって最もセクシーな男性10人のうちの1人に選ばれるなど、女性だけに限らず人を惹きつける催淫力を存分に活かし、実業界の重鎮達の信用を勝ち取るのは朝飯前。
価値のある不動産立地を見抜く目も一流で、トランプ氏の代名詞でもあるトランプタワーはその成功例の1つです。

そしてなによりも、このトランプ・タワー建設中に体得した宣伝術は、今のトランプ氏を形作るほどのものになりました。
それは「論争の的になれば売れる」です。

トランプ・タワー建設にあたり、メディアの反感を買うような出来事がいくつかあったようですが、たとえ記事が批判的であってもトランプ・タワーの名前がメディアに踊るたびに、なにやら「世界屈指の豪華ビル」がNYに建てられるというニュースはアメリカの津々浦々まで行き届きました。
結果、自費で宣伝を載せなくても勝手にメディアが騒ぎ、ビジネス上価値が出るから、とりあえず論争の的になればいい、という考えをトランプは持つようになりました。

また、記事の種になるのであれば嘘や虚偽のうわさは帰って好都合である、と考えるトランプ氏は嘘をつくことに心理的な抵抗がほぼありません。
これはリアリティに欠く過激発言が続く今回の選挙活動にもよく現れています。

現在の暴君王ドナルド・トランプの、世界の反感を厭わない暴言ぶりは、この成功体験が原点となっています。

レーガン元大統領を彷彿させるトランプ氏

NY Central Parkにあるスケートリンクの改修工事はトランプの名を馳せることになったプロジェクトの1つですが、この改修工事にあたってトランプ氏はNY市長の喧嘩を演じます。
しかし、民衆が味方をしたのはトランプ氏の方。それもそのはず、問題があった1980年代はノナルド・レーガン大統領によって「小さな政府」がもてはやされていた時代でした。

そのレーガン大統領とトランプ氏はよくアメリカのメディアは比較します。
レーガンには離婚歴があり、元民主党員(Democrat)で、元俳優で、小さな政府をうたい、常套句は”Let’s Make America Great Again”、選挙ではソ連という敵を作り非現実的な戦略防衛構想(SDI)をもって国民の支持を得ました。
一方のトランプ氏はここまで見てきたように、同じく離婚歴があり、同じく元民主党員で、Apprenticeというテレビ番組の元スターで、同じく小さな政府を推奨し、常套句はレーガンを模倣した”Make America Great Again”、主敵はヒスパニック系移民でメキシコとの国境に壁を作るなど、これまた非現実的な政策を掲げています。
ただ、レーガン元大統領とトランプ氏で違うのは、レーガン元大統領は大統領に当選する前にカリフォルニア州知事を2期にわたり勤めていたことです。
レーガンは結局、成功をおさめた大統領として多くのアメリカ人の記憶に残っています。
果たしてトランプ氏は…?

政治家としてのトランプ氏

「選挙では2番に終わればいい」

大統領選挙に出馬したのは、もとはビジネスのための宣伝であったと世間では言われています。
ある程度の選挙戦を演じることができれば、その後のビジネスに好影響を及ぼすとでも考えていたのでしょう。

トランプが初めて政治的活動をしたのは1987年、新聞にアメリカの外交政策は間違っているとの全面広告を載せて全米にメッセージを送りました。
「アメリカはペルシャ湾における石油タンカーの航行を確保する努力をしている。その恩恵をうけている西欧諸国と日本に、アメリカは請求書を突きつけるべきだ」
との広告を10万ドルものコストをかけてでも掲載しました。

当時から、日本が安保などアメリカから受けている恩恵に対して対価を払うべき、という概念は強く抱いていた模様です。

その頃から、政治家にならないか?とトランプ氏は誘われるようになります。

1999年、民主党を去り改革党に入ると、2000年大統領選に向け党の大統領候補指名の獲得を目指します。
しかし、このときは分が悪いと見るとすぐに大統領選から撤退します。
そもそも、2000年に出版した本の売り上げを上げるために、メディアに登場するために立候補したのでは、と今でも言われています。
また、選挙を機に有料のセミナーを開いたりして、選挙を利用して逆にお金を稼いだりもしたようです。
トランプにとって選挙は所詮、ビジネスチャンスでしか当初はありませんでした。

ところが、そんな不真面目に選挙に臨んでいたトランプ氏を支持するものは思いの外多かったです。

トランプ支持層

トランプは人々の恐怖心を煽ることによる人心掌握に長けています。
「われわれは深刻な問題の渦中にある」
「われわれの国は凋落している」
などと、ネガティブな発言を繰り返し、人々の恐怖に訴える。
その戦略一辺倒でここまでやってきました。

そんなトランプを支持する層は主に中流階級の白人です。
2015年米国勢調査局が発表した人口動態予測によれば、アメリカの多数派を占めてきた非ヒスパニック系の白人は、2044年に初めてマイノリティーになるそうです。
18歳未満だけに注目すると、2020年には早くもマイノリティーになるとのこと。
白人はアメリカを自分の国だと強く思い込んでいるため、ヒスパニック系などに国を乗っ取られると恐怖を抱いています。

また、最近ではPCとよばれるPolitical Correctness(差別的表現の根絶を願う運動)が行き過ぎて、白人が逆差別されている、と訴える層も厚くなっています。
最近、2016年6月12日にフロリダで起きた49人がmuslimの若者の襲撃に遭いなくなった襲撃事件の後、トランプ氏は”I refuse to be politically correct”と宣言しています。

このようなことから、トランプ氏を支持する共和党(Republican)支持者の55%が白人労働者です。
また、トランプ支持者の75%が、「白人に対する差別は黒人やヒスパニックに対する差別と同じくらい深刻だ」
と答えています。

最後に、キリスト教福音派、英語ではEvangelicalsと呼ばれる「原理主義」のキリスト教信者たちはトランプを支持する傾向にあります。
これは、ヒスパニック系や黒人などのマイノリティーの票を捨ててでも白人労働者の票を取りにいったトランプ氏が、戦略的に白人のキリスト教の票を掘り起こそうとしていることが関係しています。
実はこの福音派、アメリカの全人口3億1000万人のうちの3分の1にあたる1億人を占めると言われています。

ここの票を集めるために、選挙中テキサスでトランプ氏は選挙集会に牧師を呼び、キリスト教の教えを守ると誓約しました。

トランプ氏の外交政策 – 棍棒外交

トランプ氏の外交政策は、過去7年間にわたるオバマ大統領の治世を否定するところを出発始点としています。
IS(アイシス)、すなわちイスラム国が出来た責任はオバマの外交にあるとし、過激イスラムとの戦争を制すには武力を行使する必要もある、と明言しています。
イスラム国への徹底爆撃と資金源の剥奪をトランプ氏は約束しております。

トランプ大統領の下では、軍事力で圧倒的優位な立場に立つために、オバマ時代から続く国防費削減を免除する可能性が高いです。

対中政策では、対中貿易の赤字を解消するために中国製品に対して高い関税をかけると言っています。
そんな中国はトランプ氏を支持しているようです。中国からしてみれば、例えトランプ率いるアメリカと貿易戦争になったとしても、防衛費を払わないのであれば軍隊を引き揚げもあり得ると述べるトランプ氏が日本、韓国との関係を弱体化させることの方がよほど価値があるのです。

そしてプーチンが支持を表明していることからもロシアとの距離は近づくとされています。

所感

ここまで長々と書いてきましたが、つまるところドナルド・トランプ氏は究極のattention whore、目立ちたがりやであり、そのためには嘘のでっち上げはいくらでも話すし、なんでも大袈裟に表現する「永遠のガキ大将」である、ということがよくわかりました。

この読録を書いている最中に大統領選挙が行われ、多くのメディアの期待とは裏腹にトランプ氏がまさかの当選をはたしました。
「2番になれればいい」と言っていた男が、しかも政治経験に乏しい男が今後4年間アメリカという大国を率いていくこととなります。

この本を読み、唯一一貫している政策は日本などの国から安保の対価を徴収する、ということだけで具体的な政策はないとのことから、将来がとても不安になります。

何れにせよ、オバマの後継者としてアメリカの次の大統領になることが正式に決まったトランプ氏のくわしい素性について、本書を通して結果的に知る機会となりましたので、この本を読めてよかったです。

応用

せっかくヒラリー・クリントンとドナルド・トランプを一冊ずつ読み、選挙の後も色々な記事をよんで今回の選挙について熱心に学んできましたので、次の読録で今回の選挙の結果を振り返ってみたいと思います。

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